その1– ハンサムデビルの誘惑?の巻
「ASK」 The Smiths
何を隠そう私はその昔、熱烈なザ・スミスファンでした。(今、また炎上中のモリッシーですが、そのことについてはまた後ほど)。
ロンドンでの大学時代、ある日友だちと色々と話していると、私がモリッシーを聴いていることが発覚。「あれはドラッグだ。やめとけ。」と言われ、正直、「え?やっぱり?」と反論できなかったというエピソードがあります。その子は今もずっと私の親友、思えばきっと私の精神状態を見ての忠告だったのかと思いますが、もう一人、同じ学校にマニック・ストリート・プリーチャーズなんて大きく書かれたTシャツを着て歩いていた、日本人の女の子がいたのですが、その子はLa’sとか Rideの話はオッケーなのだけど、モリッシーと言うと「エッ?モリ男ー?」とドン引き。それ以来モリッシーは私の心の秘密となり、あまりそのことを人と話さなくなってしまったのです。それでも課題で英語のエッセーなどを書くのに、どうしてもうまい表現がみつからないときは、日本から大事に持ってきていた「モリッシー詩集」*1を取り出してきて、参考書のように使っていました。おかげさまで先生方にはあなたの表現はとても詩的であるとほめられましたー!うふふ。
こうして秘密にしていたからでしょうか、それともただ単に英語力がなかったからでしょうか、イギリス人の知り合いの中に The Smiths やモリッシーにそれぞれ特別な思いを持っている人がたっくさんいることを知ったのはずいぶん後になってからでした。どんなにシャイな人でも話題がモリッシーのことになると途端に饒舌になったりして、なんだ、これだったらもっと前からカミングアウトしておけば良かった!と思ったものでした。(この人たちが今どうしているかというのはまた終わりの方に書きたいと思います…)そもそもモリッシーがこんなにも影響力のある人だったことにさえ気づいていなかったのが不思議なのですが。
さてモリッシーの詩はどれもミステリアス、というかアンビバレントなところがあって、この「ASK」も例外ではありません。
Shyness can stop you
From doing all the things in life
You’d like to
Songwriters: Johnny Marr / Steven Patrick Morrissey
1986 The Smiths「Ask」より引用
シャイなのって人生でやりたい色んなこと
やらせてくれないし
出だしから深く考えすぎかもしれませんが、なぜ "Shyness is nice, AND" で、なぜ "BUT" ではないのでしょう。一人で色々と悶々と考えてみましたところ、 Shyness というものを擬人化してみることを思いつきました。イメージとしてひょろっとしてはにかんだ笑顔がかわいい美男子(かな…?ごめんネ)。この後出てくるルクセンブルクの出っ歯の女の子にゾッとするような詩を書いている男の子(女の子かもしれませんが、これは引きこもり気味で本の虫で暇さえあれば詩を書き、pen palもいたらしいというモリッシー本人のイメージ)が、この美男子とよくつるんで歩いている。それをモリッシーが陰から見ていて、あの子素敵だよね、君を守ってくれるしさと言う。
If there’s something you’d like to try
Ask me I won’t say “no”
How could I?
Songwriters: Johnny Marr / Steven Patrick Morrissey
1986 The Smiths「Ask」より引用
はて、今度はここに ”SO” を持ってきて、「だから」試してみたいことかあるなら僕に言ってよ、とはこれ如何に。一行目の ”AND” を真に受けて訳していくと、ここで全然「だから」じゃないじゃん、となるのですが、モリッシーが「あの子素敵だよね」と言いながら、この引きこもりっぽくてルクセンブルクの出っ歯の女の子にゾッとするような詩を書いている男の子に近寄っていき、「君の心はお見通しさ」なんて迫っている様子を想像してみると、少し解るような気がしませんか?このようなちょっと危険な香りのする誘惑に聞こえてしまうのは私だけでしょうか。はい、妄想が過ぎてすみません。でもくねくねと踊りながら近づかれたら、ほら。
Ask me
Ask me
Ask me
Ask me
Ask me
Because if it’s not love
Ask me
Ask me
Ask me
Because if it’s not love
Then it’s the bomb, the bomb, the bomb, the bomb…
That will bring us together
Songwriters: Johnny Marr / Steven Patrick Morrissey
1986 The Smiths「Ask」より引用
ここでちょっと注意。ここの "If it’s not love, then it’s the bomb … that will bring us together" は文法的に言うと強調構文*2。「もし愛でないのなら、それは爆弾なんだもの、僕達を結びつけるのは」となります。つまり、愛によってでないのであれば、僕達が引き合せられるのはのは爆弾によってだよ、ということです。「僕達を結びつける爆弾」のような感じに訳されているのを見たことがありますが、こうすると少し抽象的になってしまうかな。
多くのはにかみやさんや隠れシャイさん達はもう、この始めのいくつかのラインを聴いただけでふっと引き込まれてしまうようです。シャイでもはにかみやでもいいんだって。そういえば小学生の頃、自分では別に不都合なんてなかったのに、面談で「消極的」とか「引っ込み思案」という言葉で、普段はちょっとやそっとじゃ動じない母をいとも簡単に落胆させてしまった先生がいました。その頃辞書が大好きだった私は、消極的の反対言葉はなに?とさっそく調べてみました。もちろんそこには「積極的」とありましたから、私はそれからほとんど自虐的に積極的になろうとしました。決め付けられるのが嫌だったのですね。
でもこれは遥か昔、今みたいに消極的なら君はそれでいいなんて言う人のいない時代でした。そう、The Smithsもね。
でもこれは遥か昔、今みたいに消極的なら君はそれでいいなんて言う人のいない時代でした。そう、The Smithsもね。
では今夜はこのくらいで。
まだまだ妄想は続きます。
まだまだ妄想は続きます。
【参考資料】
*1『モリッシー詩集』モリッシー(著)中川五郎(訳)シンコーミュージック1998
残念ながら絶版か現在版元品切れのようです。
残念ながら絶版か現在版元品切れのようです。
強調構文について非常にわかりやすく説明してあります。
本文中の引用は全て著者訳です。